はじめに
「お父さん、どうしたの?」――夏の昼下がり、スイカを食べた瞬間にむせ込む父の姿。
子どものころから大好きだった果物なのに、最近は一口食べるたびに咳き込むことが増えてきた…。
実は、リハビリの現場でも「果物でむせる」という相談は少なくありません。
特に水分摂取を控えがちな高齢者は、果物から水分を取ろうとすることが多く、その結果、つるんと喉を通ってしまいむせてしまうケースがよく見られます。
夏の食卓に欠かせないスイカは、高齢になると「スイカでむせる」「果物を食べて咳き込む」ということが意外と多く起こります。
この記事では、その理由や見逃したくない体の変化、そして家庭でできる簡単な工夫についてお伝えします。

なぜスイカでむせるの?高齢者と“果物”の意外な関係
スイカは“水分が多くて油断しやすい”果物
スイカは果肉に水分が多く、つるんと喉を通ってしまいやすい果物です。
噛まずに飲み込んでしまうことも多く、**飲み込むタイミング(嚥下反射)**が間に合わずにむせる原因になります【1】。
とくに冷たいスイカは喉の感覚を鈍らせ、反射の低下を招きやすくなります。
「やわらかい=安全」ではない?むせを引き起こしやすい果物の特徴
一見やわらかく食べやすそうな果物でも、以下のような特徴があると、むせる原因になります。
- 繊維が多い(バナナ、もも など)
- 皮や薄皮が口の中に残りやすい(みかん、巨峰など)
- 酸味や冷たさで刺激が強い(柑橘類、冷えた果物)
- 口の中でバラバラになりやすい(メロン、柿 など)
高齢になると、これらの特徴が影響しやすくなるため、「食べやすそう」と思っていた果物でも注意が必要です【2】。

「スイカでむせた」からわかる、家族が見逃しやすい変化
“いつもと違う”嚥下のサイン
「今日はたまたまむせたのかな?」と見過ごしてしまいがちですが、むせる背景には、飲み込みの機能の変化が隠れていることもあります。
こんな変化、見逃していませんか?
- 好物だった果物を避けるようになった
- 食べるペースが遅くなった
- 食後に口元を何度も拭いている
些細な違和感も、嚥下機能の低下によるサインの可能性があります【1】。
“いつもと違う”声のサイン
嚥下と発声には、共通する筋肉(のどまわりの筋肉)が使われます【3】。
そのため、声の変化と飲み込みの不調は、同時に現れることもあります。
たとえば、
- 声がかすれる
- いつもより声が小さい
- 会話のときに息が続かない
といった変化も、「むせ」とセットで起きていたら注意が必要です。
▼くわしくはこちらの記事でも解説しています:
👉 高齢者の声がかすれる原因とは?放置NGの病気サインを見逃さない

家でできる「果物むせ」対策3つ
①切り方・盛り付けの工夫
スイカやメロンなどは、一口サイズの角切りにして提供しましょう。
- 一口で食べきれるサイズ(角切り)にする
- 汁気が多いときはキッチンペーパーで軽く取る
- 冷たすぎるときは、常温に戻してから提供する
口の中に入りすぎない工夫と、刺激を和らげる温度設定がポイントです【4】。
②「飲み込みやすい果物」を選ぶ工夫
すべての果物がNGというわけではありません。以下のように工夫できます。
- みかん缶(薄皮がむかれている)
- やわらかめの桃(追熟したもの)
- ゼリーと混ぜて食べることでまとまりやすくする
また、加熱することでやわらかくなる果物もあります。
例:バナナを電子レンジで10秒ほど加熱すると、繊維が柔らかくなり飲み込みやすくなります【2】。
③「おやつ」ではなく「食後のデザート」に取り入れる
空腹時や早食いしやすいタイミングではなく、食後にゆっくり食べるのが安心です。
- 食事後の「デザート」として取り入れる
- 椅子に座ったまま、姿勢を整えて食べる
- 声かけをして「ゆっくり食べてね」と促す
こうした一工夫で、果物のむせリスクを大きく減らせます【4】。

まとめ
高齢者の「むせ」は、家族が最初に気づける小さな変化のひとつです。
スイカや果物は、夏の楽しみでもありますが、油断しているとむせにつながることもあります。
- 果物の切り方を工夫する
- いつ・どんなふうに食べるかを見直す
- 声の変化や食べ方の様子もセットで観察する
ほんの少しの変化でも、受診や対策のきっかけになります。
「スイカでむせた」から、家族の健康に気づける――そんな夏の気づきも大切にしてみてください。
✅ 引用文献
【1】日本摂食嚥下リハビリテーション学会. 嚥下障害診療ガイドライン第3版, 2020年.
【2】中村育子 他. 高齢者のためのやさしい食事, 医歯薬出版, 2018年.
【3】林一郎 他. 高齢者における摂食嚥下障害の特徴とその対応. 日本老年医学会雑誌, 2019.
【4】厚生労働省. 高齢者の食事と栄養に関する資料. https://www.mhlw.go.jp/