はじめに
「最近、食事のときにむせることが増えた…」
高齢の家族にそんな変化があると、つい心配になりますよね。
「むせる=老化現象」だけではありません。
高齢者がむせやすくなる背景には、のどや口の機能・姿勢・病気など複数の要因が関係しています。
この記事では、現役の言語聴覚士(ST)が、
むせの主な原因とすぐにできる対策をわかりやすく紹介します。
✔ 最近高齢の家族が食事中によくむせる
✔ 認知症のサイン?と心配している
✔ 誤嚥性肺炎を予防したい
✔ 家庭でできる工夫や注意点を知りたい
高齢者がむせる主な原因5選
高齢者がむせやすくなる背景には、のどや口の機能・体調・環境の変化など、複数の要因が関係しています。
以下の表に、主な原因とよくあるサインをまとめました。
| 原因 | よくあるサイン |
|---|---|
| 嚥下機能の低下 | 飲み込みが遅い/食後に咳が出る |
| 口や喉の乾燥 | 唾液が減る/パサつく食事でむせる |
| 咳反射の低下 | 食べ物が気管に入りやすい |
| 認知症の初期症状 | 噛む・飲み込むタイミングがずれる |
| 神経疾患の影響 | 脳卒中・パーキンソン病後の嚥下障害 |
たとえば「咳反射の低下」は、“むせても咳が出にくくなる”状態です。
このような変化が続くと、誤嚥性肺炎のリスクが高まることもあります。
「どう対応すればいいのか?」については、次の章で詳しく解説します。
むせが続くと、「ただの咳」では済まないこともあります。
実は、気づかないうちに**“誤嚥(ごえん)”が起きているサイン**かもしれません。

食事中の「むせ」と「咳」は誤嚥のサイン?
食事中に咳が出る場合、単なる「むせ」ではなく、
**食べ物や飲み物が誤って気管に入る“誤嚥”**の可能性があります。
🔍 誤嚥のサインをチェック
- 食後に声がゴロゴロする(のどに残っている)
- 発熱を繰り返す
- 食事量が減る
- 食後に疲れてぐったりする
✔POINT:たまにでも繰り返すようなら、早めに医療機関へ相談を。
こうしたサインが見られたら、むせの原因が単なる老化ではないこともあります。
次に、むせたときに慌てずできる対処法を紹介します。
むせた時の緊急対処法
・背中を優しく叩く:肩甲骨の間を斜め上向きに数回叩く
・落ち着かせる:咳は異物を排出しようとする自然な反応。止めない
・水は与えない:むせている最中に水を飲ませると、さらに誤嚥の危険
日常生活での注意ポイント
むせを減らすには、「食べ方」「環境」「姿勢」を整えることが基本です。
少しの工夫で、誤嚥リスクを大きく減らすことができます。
🍴 食事中の環境づくり
- 食事中はテレビや会話を控え、集中できる時間をつくる
- 食べ物を一口ずつ、よく噛んでゆっくり食べる
- 食後すぐに横にならず、30分は座って過ごす
🪑 姿勢を整える
- 足の裏が床につく高さの椅子を選ぶ
- 背筋を伸ばし、あごを軽く引く姿勢を意識する
- クッションで腰を支えると安定します
✔POINT:姿勢が整うだけで、飲み込みやすさが驚くほど変わります。

むせやすい食べ物・季節別の注意点
季節や食材によっても、むせやすさは変わります。
同じ食べ物でも、「温度」や「かたさ」が変わるだけで飲み込み方が違ってくるのです。
🍜 夏に多い「そうめん・冷たい飲み物」
冷たい食品は、のどの感覚を鈍らせ、誤嚥リスクが上がります。
氷水やアイスコーヒーを一気に飲むのも要注意。
冷たいものは少し常温に戻してから。
一口ずつ、ゆっくり飲むことがポイントです。
👉 夏に多い“むせ”の原因とは?高齢者とそうめんの意外なリスク
🍲 冬に多い「鍋料理・餅」
熱い汁や餅は、温度差+粘度でむせやすくなります。
とくに餅は、喉に張りつく・伸びるといった特性があるため注意が必要です。
餅は小さく切る・よく噛む・急いで飲み込まない。
鍋は少し冷ましてから口に入れましょう。
👉高齢者が“鍋料理でむせる”のはなぜ?冬に多い原因と対策をSTが解説
☕ 飲み物の工夫
ストローを使うと勢いよく液体が喉に流れ込み、むせる原因になります。
コップから少量ずつ飲む、またはスプーンを使うのがおすすめです。
飲み込みづらい場合は、「とろみ」を加えることで安全に飲めるようになります。
👉 【比較】とろみ剤の種類と選び方|粘度・味・使いやすさの違いを徹底解説

むせを減らす訓練と予防法
「むせやすさ」は、年齢のせいだけではありません。
のどや口の筋力を保つことで、飲み込みの力(嚥下機能)は維持できます。
💪 毎日できる簡単な口の体操
- 口を「いー」「うー」と交互に動かす
- 舌を上下・左右にゆっくり動かす
- 唇をすぼめて息を吐く(口すぼめ呼吸)
このような軽い体操を1日3分続けるだけでも、口まわりの筋肉が保たれます。
🗣 声を出す習慣をつける
声を出すことは、飲み込み力を鍛えるトレーニングにもなります。
「おはよう」「ありがとう」など、日常のあいさつをしっかり声に出すだけでもOKです。
👉 関連記事:【2025年版】現役STが教える!自宅でできる誤嚥性肺炎予防トレーニング
✔POINT:「話す」「笑う」「歌う」ことも、嚥下リハビリの一部です。
家族で声を出す時間を増やすだけでも、予防につながります。
💧 水分摂取と栄養バランスも大切
- 水分不足は口の乾燥を招き、むせやすさの原因になります。
- こまめにお茶・スープ・ゼリー飲料などを摂る習慣を。
- 筋力維持のため、たんぱく質(肉・魚・豆製品)を意識的にとりましょう。
- 食事は嚥下状態に合わせて形状を工夫し、無理に食べ続けないことも大切です。

医療機関へ相談すべきサイン
次のような変化が見られた場合は、自己判断せず早めに相談を。
- 食事中に頻繁にむせる
- 食後に声がガラガラする
- 発熱を繰り返す
- 体重が減ってきた・食事量が減った
受診先の目安:耳鼻咽喉科、内科、嚥下外来、または地域包括支援センター
専門的な評価を受けることで、リスクを早期に防ぐことができます。
まとめ:むせは“体のサイン”を教えてくれる
「むせる」ことは、体がうまく飲み込めていないサインです。
早めに気づき、食べ方・姿勢・環境・トレーニングを少し工夫するだけで、
食事をもっと安全に、もっと楽しむことができます。
家族のちょっとした気づきが、誤嚥性肺炎の予防にもつながります。
今日の食事から、できることを一つずつ始めてみましょう。


