はじめに
「おじいちゃんの声がかすれて聞き取りづらい」
「電話越しだと何を言っているかわからないことが増えた」
そんなふうに、高齢のご家族の“声”の変化に気づくことはありませんか?
高齢者の声がかすれる原因は、加齢による自然な変化であることが多いですが、放っておくと会話が減ったり、生活の楽しみが損なわれてしまうことがあります。
前回の記事では「高齢者の声がかすれる原因とは?放置NGの病気サインを見逃さない」を解説しました。
今回はその続編として、病気の可能性は低いけれど加齢によって声が弱ってきた方へ、家でできる声トレーニング方法をご紹介します。

なぜ“声トレ”が必要なの?
高齢になると、声がかすれたり小さくなったりするのは自然な現象です。しかし、これは声帯や呼吸筋が少しずつ衰えているサインでもあります。
主な変化としては、
- 声帯が閉じにくくなり、息漏れして声がかすれる
- 呼吸筋が弱まり、声が小さくなる
- 声帯の柔軟性が低下し、声の高低差が出にくくなる
などが挙げられます。
しかし、声も筋肉と同じで、使えば維持・改善が可能です。毎日少しずつ声を出す習慣をつけることで、会話しやすさや表現力を取り戻せます。
厚生労働省のe-ヘルスネットでも、高齢者の声の変化や加齢に伴う声の衰えの予防として、日常的に声を出す習慣を持つことが推奨されています。
専門的にも「声を使う習慣」は健康維持の一環と考えられており、家で簡単にできる声トレはその第一歩です。
声がかすれる高齢者におすすめの声トレ5選
以下では、高齢の方でも無理なく続けやすい、声のトレーニングを5つご紹介します。
ぜひご本人と一緒に、楽しみながら取り組んでみてくださいね。
① 胸式深呼吸+やさしい発声
声を出す前の“準備運動”。呼吸と発声のバランスを整えましょう。

●やり方
- 背筋を伸ばし、鼻からゆっくり息を吸います(胸がふくらむのを意識)
- 口から「はー」と吐きます
- 声に少しだけ息を乗せて「は〜」とやさしく発声します
\ポイント!/
喉に力を入れず、息を吐くついでに声を出す感覚を大切に。
② 「あ・い・う・え・お」母音トレーニング
口の動きと声の出しやすさ、滑舌を整えるシンプルなトレーニング。

●やり方
- 鏡の前で、「あ・い・う・え・お」とゆっくり発声
- 1音1音、口の形を大きく意識して行いましょう。鏡を見ながら発声するのがおすすめ!
\ポイント!/
表情筋が刺激され、声だけでなく表情の明るさにも効果的◎
③ 声の階段トレーニング(ピッチ練習)
声の高さにバリエーションをつけて、声帯の柔軟性を鍛える練習です(※3)。

●やり方
- 「あ〜」をいつもの高さで発声
- 「↑あ〜」「↓あ〜」と、高く→低くと声を変えていきます
- ピアノやスマホアプリで音を鳴らして合わせても◎
\ポイント!/
無理に高音を出さず、出せる範囲で行いましょう。
④ ロングトーン発声(長く声を伸ばす)
息と声のコントロール力を養います。

●やり方
- 息を吸って、「あーーーー」と1回でできるだけ長く発声します
- タイマーで秒数を測るのもおすすめ
\ポイント!/
1日1〜2回でも効果あり。無理せず疲れたら休みましょう。
⑤ 声に出して読む(音読)
会話に近い練習で、滑舌・リズム・気分のリフレッシュに。

●やり方
- 新聞や童話の一節を声に出して読む
- 「こんにちは」「いらっしゃいませ」などの定型句を繰り返すだけでもOK
\ポイント!/
家族と一緒に読むことで会話のきっかけにも◎
📚おすすめの「声トレ・滑舌トレーニング本」3選
声トレを習慣にするには、練習方法がまとまった本を活用するのも効果的です。ここでは、高齢の方でも取り組みやすい本を3冊ご紹介します。
① 『60歳からの滑舌レッスン:1日3分でむせ予防! — 赤間裕子著』
私自身、実際のリハビリでも使用している一冊です。
字が大きくて見やすく、滑舌練習用の文章も豊富なので、練習の場面でそのまま活用できます。
② 会話力があがる大人のはきはき「滑舌」上達ドリル:1日3分言葉の体操で口元・表情・脳を活性化 — 花形一実著
高齢者や滑舌に不安のある方におすすめ。
1日3分の簡単トレーニングで口元・表情・脳を活性化し、読みやすい大きめ文字で無理なく続けられます。毎日の会話をよりはきはきと、聞き取りやすくするのが目的です。
③ あなたの「声」と「滑舌」がどんどんよくなる本 — 藤野良孝/海保知里著
声や滑舌の衰えを感じる高齢者、自宅でリハビリを続けたい方に最適。
実践的な練習文が豊富で、毎日コツコツ取り組むことで会話力や表現力を自然にアップさせることができます。
まとめ
“声を出すこと”をあきらめないで!
声のかすれや小ささは、年齢とともに自然に起こるものですが、トレーニングで改善が目指せる機能でもあります。
今日ご紹介した声トレは、道具もいらず、1日数分でできるものばかり。
ご家族の中に「最近、声が出にくそう」と感じる方がいたら、
ぜひ今日から一緒に始めてみてください。

📚参考・引用文献
(※1)飯嶋信子(2014). 『高齢者のための音声トレーニング』. 医歯薬出版.
(※2)日本音声言語医学会(2012). 『音声障害診療ガイドライン 2012年版』. 金原出版.
(※3)山中和子(2017). 『声の健康法:声帯を鍛えて健康寿命をのばす』. 幻冬舎.
(※4)厚生労働省 e-ヘルスネット
(※5)日本耳鼻咽喉科学会「加齢性音声障害」