はじめに
「最近、親があまり食べたがらない…」そんな変化に気づくと、つい「年のせいかな」と思ってしまうかもしれません。
でも夏の高齢者の食欲低下は単なる加齢ではなく、夏バテや体調不良のサインであることも。
放置すると体力低下や誤嚥のリスクが高まり、回復にも時間がかかります。
この記事では、高齢者が夏に食欲不振になる原因と注意すべきサイン、そして家庭でできる食事ケアについて、現役の言語聴覚士がわかりやすく解説します。
食欲不振を招く3つの原因
体温調節・代謝の低下
高齢になると体温調節機能が低下し、暑さによる体の負担が増えます。
代謝も変化するため、普段より食欲が減ることがあります【1】。
水分不足・脱水症状
トイレに行くのが面倒で水分を控える高齢者も多く、その結果、脱水状態になり食欲が落ちやすくなります。
水分不足は嚥下機能の低下やむせのリスクも招くため、注意が必要です【2】【3】。
胃腸機能の低下と夏の消化不良
夏の暑さで胃腸の働きが弱まり、食べ物の消化がうまくいかず、食欲が減退することがあります【4】。

夏に食欲が落ちた高齢者に見られる3つの注意サイン
急な体重減少・活力低下
短期間で体重が減ったり、普段より元気がない場合は、医療機関への相談が必要です【5】。
食事を残す回数が増える
食欲の低下により食事量が減り、栄養不足につながる恐れがあります。
むせや誤嚥の増加
食べ物を飲み込む力が弱くなり、むせたり誤嚥性肺炎のリスクが増加します。
特に水分補給不足はこれを悪化させる原因です【3】。
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やわらかくて水分が多い野菜・果物
トマト、きゅうり、ナス、スイカ、メロン、桃などは水分が多く、食べやすい夏の代表食材です。
水分補給にもなり、食欲がない時でも摂りやすいのが特徴です。
しかし水分の多い果物は、むせやすいため注意が必要です。
詳しくは高齢の親がスイカでむせる?夏に増える“食事のむせ”と見逃したくないサインもご覧ください。

消化にやさしい高タンパク食品
白身魚や豆腐、ささみなど胃腸に負担の少ないタンパク質を選びましょう。
夏バテで弱った体に優しい食事になります。
香り・酸味で食欲を刺激する食材
生姜やシソ、レモン、梅干しなどの香りや酸味が食欲を刺激しやすいです。
食事に取り入れると良いでしょう。
家族ができる!夏バテで食欲が落ちた高齢者へのサポート方法3選
飲みやすく安全な水分補給の工夫
飲み物は冷たすぎず、刺激の少ない麦茶や葛湯、薄めた果汁飲料がおすすめです。
ゼリー状の経口補水剤も飲みやすくて便利です【2】。
柔らかく少量ずつの食事提供
固い食べ物は避け、柔らかく調理したり、一口サイズに切るなどの工夫をしましょう。
食事の量は一度に多くせず、回数を増やして少量ずつ食べることが大切です。
特に噛みにくい状態で丸のみすると、窒息のリスクが高まるため注意が必要です。
しっかり噛んでゆっくり飲み込めるよう見守りましょう。

快適な食事環境と優しい声かけ
椅子に座って姿勢を整え、リラックスできる環境を作ることが重要です。
テレビを見ながらの食事は避け、食事に集中できる環境をつくりましょう。
高齢者施設では食事中にリラックスできる音楽を流すこともあります。家族が「ゆっくり食べてね」と優しく声かけするのも効果的です。

まとめ
高齢者の夏バテ食欲不振は早めのケアが大切。
小さな変化でも家族が気づき、適切なケアをすることで元気を取り戻せます。
水分不足やむせのリスクにも注意しながら、季節の食材や食べやすさを工夫し、安心して食事を楽しめる環境を整えましょう。
参考・引用文献
- 日本摂食嚥下リハビリテーション学会 編『摂食嚥下リハビリテーションマニュアル』第一版, 2017
- 河合内科胃腸科クリニック,「脱水と高齢者の健康リスク」, 2021
- 日本老年医学会「高齢者の体重減少と健康リスク」, 2020
- 国立長寿医療研究センター「誤嚥性肺炎の予防と対策」, 2019
- 社会福祉法人 全国老人福祉施設協議会「高齢者施設の食事環境改善事例」, 2019