はじめに
「最近、お父さんの声が小さくなった気がする」
「電話だと、もごもご話していて聞き取りづらい」
そんな変化に、ふと不安を感じたことはありませんか?
加齢によるものと思われがちですが、入れ歯の不具合や口の筋力低下、脳や神経の病気などが関係している場合もあります。
会話が減ってしまう前に、まずは“なぜ話しにくくなっているのか”を知ることが大切です。
本記事では、現役言語聴覚士が「声がかすれる」と「もごもご話す」それぞれの原因と、家庭でできるケア方法をやさしく解説します。

家庭でできる!話し方の変化をチェックしてみよう
声や話し方の変化を感じたときに、家庭でも簡単に確認できる方法があります。
日本言語聴覚士協会が紹介している「声の健康チェック」を参考に、次の項目を試してみましょう。
| チェック項目 | ポイント |
|---|---|
| ✅ 「あー」と5秒以上続けて声を出せる | 息が続かないときは、声帯の筋力低下が考えられます。 |
| ✅ 「パ・タ・カ・ラ」を3回くり返して言える | 口や舌の動きが弱ると滑舌が悪くなります。 |
| ✅ 食後にむせる、声がガラガラする | 嚥下機能の低下による誤嚥のサインかもしれません。 |
| ✅ 電話で「聞き取りづらい」と言われる | 声の張りや明瞭さが落ちている可能性があります。 |
1つでも当てはまる場合は、声や口まわりの筋力が弱っているサインです。
(出典:日本言語聴覚士協会『声の健康を守るために』/NPO法人日本パタカラ協会)

高齢者の話し方の特徴3選
話し方の変化にはいくつかのパターンがあります。
ここでは、日常で気づきやすい3つの特徴を紹介します。
① 声が小さくかすれる
年齢とともに声帯を動かす筋肉が弱くなり、声に張りがなくなります。
喉の乾燥や薬の副作用、姿勢の影響も関係します。
「疲れると声が出にくい」「夕方になるとガラガラする」ときは、
息の力や声帯の閉じる力が弱っているサインかもしれません。
👉 関連記事:高齢者の声がかすれる原因とは?放置NGの病気サインを見逃さない
② もごもご話す・滑舌が悪い
入れ歯が合っていない、舌や唇の筋力が落ちているなどの理由で、
言葉がはっきり出にくくなることがあります。
「さ行」「た行」「ら行」が言いにくい、口をあまり開けずに話すなど、
音がこもるように聞こえるときは注意が必要です。
③ 話すスピードが遅くなる
息のコントロールや言葉を選ぶ力が落ちると、話すテンポがゆっくりになります。
一語ずつ発音できていれば問題ありませんが、
「途中で息が切れる」「言葉が途切れる」ときは、
呼吸と声のバランスを整える工夫が大切です。
「以前と違うかも?」と感じたら、その気づきが最初の一歩です。
無理に直そうとせず、ゆっくり見守ることから始めましょう。

声の変化を引き起こす原因3選
声や話し方の変化には、いくつかの理由があります。
単に「年のせい」だけではなく、体のさまざまな働きが関係していることもあります。
声や口の筋肉の衰え
年齢とともに、喉や口まわりの筋肉は少しずつ弱っていきます。
その結果、
- 声がかすれる
- はっきり発音できない
- 長く話すと疲れる
などの変化が現れます。
息が続かないときは、声を支える呼吸の筋肉が弱っているサインかもしれません。
聞こえの変化による影響
意外と見落とされがちなのが、聞こえの変化です。
自分の声を耳で確認しづらくなると、声の大きさや話し方が変わることがあります。
たとえば、以前より声が小さくなったり、こもったように聞こえたりするのは、
聴力の低下が影響していることがあります。
「テレビの音が少し大きくなったな」と感じたときは、
声の変化も一緒に起きていないか、意識してみましょう。
脳や神経の働きによる変化
脳や神経の働きが影響すると、声や発音、話すテンポにも変化が出ます。
たとえば、脳梗塞やパーキンソン病などの病気では、
声が小さくなったり、言葉が出にくくなったりします。
こうした症状が急に現れた場合は、体からのサインの可能性があります。
気づいたときは早めに相談しましょう。

家でできる“口や喉のトレーニング”
声のかすれや滑舌の悪さが気になるときは、口や舌、喉の筋肉を動かすことが大切です。
特別な器具を使わなくても、日常の中でできる簡単な運動があります。
たとえば、
・「い・う・え・お」と大きく口を開けて発音する
・舌を左右に動かす
・口をすぼめて「うー」と声を出す
・「パ・タ・カ・ラ」を3回くり返して言う
どれも短時間ででき、顔まわりの筋肉をまんべんなく刺激します。
「テレビを見ながら」や「お風呂で」など、気づいたときに少しずつ行うだけでも十分です。
正しいやり方や注意点を知りたい方は、こちらの記事で詳しく紹介しています。
👉 関連記事:高齢者の滑舌が気になる?口の体操の効果とやり方【ST監修】
聞き取りやすくなる“会話の工夫”
話す内容だけでなく、**「どんな環境で・どんなスピードで」**話すかも大切です。
少しの工夫で、会話の疲れや聞き取りづらさがぐっと減ります。
・テレビや換気扇などの音を少し下げてから話す
・相手の正面を向いて、ゆっくり一語ずつ話す
・息が苦しくなるときは、短い文で区切って話す
・笑顔や表情を意識して、雰囲気をやわらかくする
家族も、「え?」ではなく「もう一度ゆっくりお願い」など、
相手が話しやすい言葉を使うことで、会話が続きやすくなります。
少しの気配りで、会話のストレスがぐっと減ります。

まとめ
声や話し方の変化は、誰にでも起こりうる自然なことです。
けれど、気づいたときに少し工夫を取り入れるだけで、
「聞き取りやすさ」や「話す楽しさ」はぐっと変わります。
家族が「最近ちょっと違うな」と気づいた瞬間が、
改善のチャンスでもあります。
無理にトレーニングを続けるより、
一緒に声を出したり、会話の時間を増やすことが一番のケアです。
もし変化が長く続くときは、専門家に相談してみましょう。
早めの気づきが、これからの“話す力”を守る第一歩になります。
📚参考・引用文献
- 日本言語聴覚士協会『声の健康を守るために』(出典:日本言語聴覚士協会公式サイト)
- 日本耳鼻咽喉科学会「音声障害について」 ※音声障害の診断や治療の基礎情報、ガイドラインへの案内も掲載されています。
- NPO法人 日本パタカラ協会 公式サイト
- 厚生労働省「加齢性難聴の理解と支援」

