✦ はじめに
冬は感染症が増え、介護施設でもマスク着用が必要になる季節です。
その中で感じるのが、
**「高齢者の声はマスク越しだと本当に聞こえにくい」**という現実。
声量が小さい方や構音障害がある方は、
マスクによってさらに声が届きにくくなり、
伝わらない → 話さない → 口腔機能が低下する
という“負のスパイラル”が起こりやすくなります。
この記事では、現役STとしての経験をもとに、
マスク越しで声が聞こえにくくなる理由と家族ができる対策を解説します。

なぜ高齢者はマスク越しの会話が難しくなるのか?
感染対策でマスク着用だった時期、食事時間でこんな場面がありました。
利用者さんが近くの方に何度も話しかけていましたが、
声はマスクでこもり相手にはほとんど届かず。
何度かやり取りした後、
その方は話すことを諦めて黙ってしまいました。
特に影響を受けやすいのは👇
- もともと声が小さい
- 話すのに疲れやすい人
- 口の動きが小さい人(もごもご話すタイプ)
- 姿勢が前かがみで、息が浅くなりやすい人
「小声 × マスク」=相手に届かない
という状況が起こりやすいのです。
マスクをすると“聞こえにくくなる”3つの理由
高齢者は加齢による聞こえの変化が出やすく、
そこにマスクの影響が重なることで、
一気に「聞き取りにくい状態」が生まれます。
① 声がこもり、音の強さが弱くなる
布・不織布のマスクは息の勢いと声の響きを抑えてしまいます。
もともと声が小さい高齢者では、相手に届く音量がより小さくなります。
② 高音域(子音)が吸収され、言葉の輪郭がぼやける
マスクは特にサ行・タ行・カ行などの子音を吸収します。
加齢で聞こえが低下しやすい部分でもあり、
「聞こえるけど何を言っているかわからない」という状態が起こりやすくなります。
③ 周囲の雑音にかき消されやすい
テレビ音・食堂のざわつき・空調音…。
高齢者は“雑音下での聞き取り”が苦手なため、
マスク越しの弱い声はすぐに雑音に埋もれてしまいます。

会話が減ることで起こる“口腔機能・認知機能低下”のリスク3選
マスクで声が届かず、
「伝わらない → 話さない」が続くと、
次のような影響が出やすくなります。
① 口の筋肉が弱り、声や飲み込みが低下しやすい
会話は、声帯・舌・唇・呼吸など多くの筋肉を同時に使う活動です。
話す機会が減ると筋力が弱り、
声が出にくくなる・むせやすくなることがあります。
(参考:厚生労働省|オーラルフレイルについて)
② 飲み込む力にも影響が出やすい
発声と嚥下は共通する筋肉を使うため、
会話量が減ると飲み込みが弱り、
誤嚥のリスクが高まることがあります。
③ 会話量の低下は認知機能にも影響する
会話は脳を強く刺激する活動です。
話す・理解する・返す、というやり取りが減ることで、
注意力・判断力などが低下しやすくなるとされています。
(参考:国立研究開発法人 国立がん研究センター がん対策研究所 予防関連プロジェクト)

今日からできる「聞こえやすさを守る工夫」4選
読んだその日からできる、効果の高い工夫だけをまとめました👇
① 静かな場所に移動して話す
テレビ・空調・食堂の音…
高齢者にとって“雑音”は最大の敵です。
② 大事なことは短く区切って伝える
「今日は病院」
「薬、飲んだ?」
など、短い文にするだけで理解がスムーズ。
③ 表情・指差し・うなずきで補う
声だけに頼らず、“非言語のヒント”を増やすと伝わりやすくなります。
④ マスクは清潔に。つけ外しはマスクケースへ
高齢者施設の“あるある”👇
- 食事中にむきだしで置く
- ポケットでぐしゃぐしゃ
- 床に落ちている
→マスクケースがあると管理が安定します。
冬に役立つ“聞こえやすさおすすめアイテム”3選
① マスクケース
「マスクを外した後そのまま置いてしまう…を防ぐ、抗菌加工付きの2枚セットカバー。高齢の親も“使いやすく清潔に管理”できます。」
② 声がこもりにくい立体マスク
「口元に空間ができる3D立体形状で、“声がこもらない・息がしやすい” マスク。マスク越しの会話が苦手な高齢の方にも。」
③ 小型スピーカー
テレビの音が聞き取りづらい高齢の方に、手元で“はっきり聞こえる”環境を作れるスピーカー。
大きめダイヤルで操作が簡単、声が届きにくい冬場の会話補助にも即効性があります。
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まとめ
マスクは感染症対策に重要ですが、
高齢者にとっては“声が届きにくくなる”大きな要因にもなります。
放置すると、会話量が減り、
声・飲み込み・認知機能へ影響が出ることも。
家族のちょっとした工夫で改善できる部分はたくさんあります。
「最近聞こえにくいな?」と思ったら、
まずは環境を整えて、ゆっくりやさしく声をかけてみてください。

