はじめに

「最近、お父さんの声、ちょっと聞き取りづらいかも…」

「うちも。電話だと特に、もごもご話してる感じがして…」
こんなふうに、高齢の家族の“声や話し方の変化”に気づいたことはありませんか?
加齢とともに、「声がかすれる」「滑舌が悪くなる」といった変化が少しずつ現れることがあります。
その原因は、声帯や口まわりの筋力の衰えだけでなく、難聴や病気の影響が関係している場合も。
この記事では、高齢者に見られる“話し方の変化”と、その対策として自宅でできる「声のトレーニング」を、言語聴覚士(ST)の視点からやさしく解説します。
「なんとなく気になるけど、どうすればいいか分からない…」
そんなご家族の方に、役立つ内容をお届けします。

高齢者の話し方の“特徴”は?
高齢になると、声や話し方にさまざまな変化が現れます。
これは自然な老化現象の一つですが、日常会話に影響が出るほどの変化は、
コミュニケーションのストレスや、健康状態の見逃しにもつながるため注意が必要です。
ここでは、家族が気づきやすい高齢者の話し方の主な特徴を解説します。

1. 声が小さくかすれる
年齢とともに声帯の粘膜や筋肉が萎縮し、声がかすれたり小さくなったりします。
特に電話越しだと「聞き取りづらい」「声が通らない」と感じやすくなります。
これは加齢性の**声帯萎縮(声帯溝症など)**によるもので、早期にはリハビリや生活改善で改善が期待できます[¹]。
2. もごもご話す・滑舌が悪い
口の周りの筋力や舌の動きが衰えることで、発音が不明瞭になり、言葉がはっきりしない“もごもご話す”状態になります。
本人が「きちんと話しているつもり」でも、聞き手には伝わりづらく、会話がすれ違いやすくなります。
このような症状は、構音障害の初期サインである可能性もあります。
脳血管障害(軽度の脳梗塞など)やパーキンソン病の兆候として現れることもあるため、
滑舌の変化は“加齢だけ”と決めつけず、注意して観察することが大切です[²]。
3. 話すスピードが遅くなる
加齢に伴って、考えるスピードや口を動かすスピードがゆっくりになるため、話すテンポも遅くなりがちです。
これは自然な変化のひとつですが、「言葉がなかなか出てこない」ような様子が増えたときは、
失語症や認知症の初期症状である可能性もあるため、注意深く見守りましょう。
声の変化は“加齢だけ”じゃない原因とチェックポイント
高齢者の話し方に変化が見られると、「年のせいかな?」と考えがちですが、加齢だけでなく病気や生活習慣の影響も見逃せません。
ここでは、声や話し方の変化に影響する主な原因と、そのチェックポイントを紹介します。
声や話し方の変化に影響する主な原因と症状
原因 | 代表的な症状 |
---|---|
声帯の萎縮・加齢性変化(声帯溝症など) | 声がかすれる、小さくなる、長時間話すと疲れる |
構音障害(舌や口の動きの低下) | もごもご話す、滑舌が悪い、言い間違いが増える |
聴力の低下(加齢性難聴) | 自分の声の大きさがわからない、ボソボソ話す/逆に大声になることも |
脳血管障害の後遺症(軽度の脳梗塞など) | 言葉が出にくい、語彙が出てこない、話すスピードが遅くなる |
パーキンソン病やALSなど神経疾患 | 声が小さくなる、抑揚がなくなる、表情が乏しくなる |
家族が気づきやすいチェックポイント
✅ 声が以前より小さく、聞き取りづらくなった
✅ 電話越しで会話がしにくくなった
✅ はっきり話しているつもりでも、言葉がもごもごして聞き取りづらい
✅ 話のテンポが遅くなり、言葉が詰まる
✅ 本人が「声が出にくい」と訴えることが増えた
こうした変化が複数当てはまるときは、加齢以外の要因が絡んでいる可能性が高いです。
💡 関連記事で詳しく解説しています:
▶︎ 高齢者の声がかすれる原因とは?放置NGの病気サインを見逃さない
▶︎ 声が出にくい高齢者の方へ|家でできる“声トレ”5選(専門職が解説)
家庭でできる5つの工夫
声や話し方の変化を「年のせい」で済ませず、早めの対策や工夫を行うことで、コミュニケーションのしやすさは大きく変わります。
ここでは、ご家庭でできる5つの工夫をご紹介します。
1. 声を出す機会を意識して増やす
年齢とともに人と話す機会が減ると、声帯や口の筋肉が衰えがちです。
短時間でもよいので、毎日声を出す習慣を作ることが大切です。
- 独り言やテレビへの相づち
- 簡単な音読(新聞や歌の歌詞など)
- 家族との電話や会話を意識的に増やす
2. 「パタカラ体操」などの簡単な発音練習
滑舌の改善や口の動きをスムーズにするには、構音トレーニングが効果的です。
「パ・タ・カ・ラ」と発音する体操は、舌・唇・頬などの筋力維持にもなります。
- 「パ」…唇の動き
- 「タ」…舌先の動き
- 「カ」…舌の奥の動き
- 「ラ」…舌全体の柔軟性
3. 聴こえに配慮した会話環境を整える
加齢性難聴があると、声が聞き取りづらくなり、会話がうまく続かなくなります。
静かな場所で、相手の顔を見て話すことがとても重要です。
- テレビの音や雑音を減らす
- 相手の正面に座って話す
- ゆっくり、はっきりとした口調で話す
4. 集音器・スピーカーなど、便利グッズの活用
会話中の「え?」「聞こえにくいな」が続くと、双方にストレスが溜まってしまいます。
家庭でも使いやすい集音器・会話補助グッズを取り入れてみるのもおすすめです。
🎧 おすすめ商品:みみ太郎(集音器)
- 耳が遠くなった方でもクリアに会話が聞こえる
- 自然な音質で屋内・屋外どちらでも使用可能
- 電池式で扱いやすく、高齢者でも使いやすい設計
💡 関連記事で詳しく解説しています:
📞 おすすめ商品:スピーカーフォン搭載電話機
▶︎ 厳選して決めたいので、後日記事に書きますね。
※この商品は実際に使用したわけではありませんが、音声リハビリを行う立場から「こういう機能があると良い」という視点で紹介しています。
5. 声の変化が続くときは、受診を検討する
声がかすれる・もごもご話すなどの症状が続く場合、耳鼻咽喉科や言語聴覚士に相談することも検討しましょう。
症状によっては、病気の初期サインである可能性もあるからです。
まとめ
- 高齢者の話し方の変化は、「もごもご話す」「声がかすれる」「聞き返しが増える」など、さまざまなサインで現れる。
- 声帯や構音器官の老化、加齢性難聴などが原因であることが多い。
- 毎日のちょっとした声出し習慣や、聞こえやすい環境づくりが、予防・改善につながる。
- 音声補助グッズの導入や、専門医への相談も視野に入れる。
高齢になると、声の出し方や話し方にさまざまな変化が現れます。
それが加齢による自然な変化なのか、病気のサインなのかを見極めるのは、なかなか難しいものです。
声や滑舌の衰えは、本人が気づきにくく、知らず知らずのうちに“会話の機会”そのものを減らす要因にもなります。
だからこそ、日々の会話で「最近、ちょっと聞き取りにくいな」「何度も聞き返してしまうな」と気づいたときこそが、家族ができるサポートのチャンスです。

🧩関連記事(内部リンク)
📚参考文献・引用
- 日本耳鼻咽喉科学会. 音声障害について.
- 厚生労働省「高齢者の健康保持対策」
- 日本言語聴覚士協会『声の健康を守るために』
- 飯田仁志 他 (2020)『加齢による音声・構音変化のリハビリテーション』医学書院
- NPO法人 日本パタカラ協会 公式HP
- 厚生労働省「加齢性難聴の理解と支援」