はじめに
お正月といえばお餅。
しかし毎年のように「餅をのどに詰まらせて救急搬送」というニュースが流れます。
高齢になると、なぜお餅でむせやすく、詰まりやすくなるのでしょうか?
ここでは現役の言語聴覚士(ST)の立場から、安全にお餅を楽しむための工夫を解説します。

施設でも“お餅”は避ける?その理由とは
お正月シーズンになると、施設でも「お餅をどう提供するか」が話題になります。
実際には、普通のお餅は出さずに白玉風のやわらかい団子や介護用のソフト餅を使うことが多いです。
私の勤務先でも、お餅の代わりに「見た目はお餅でも舌でつぶせる柔らかさ」にしたものを提供しています。
季節を感じてもらいつつ、安全に楽しんでもらうための工夫です。
「高齢者は何歳までお餅を食べられる?」という質問もよくありますが、年齢よりも大切なのは噛む力・飲み込む力・見守り体制です。
本人に合った形や代用品を選ぶことで、リスクを減らしながら季節の味を楽しむことができます。
なぜお餅は高齢者に危険?詰まりやすい理由をSTが解説
お餅は「弾力」「粘り」「温度による硬化」という三つの特徴を持っています。
一口大に切っても、のどや上あごに貼りつくことがあるため、安心とは言えません。
特に注意したいのが「お雑煮」。
汁物とお餅が分離しにくく、熱で柔らかくなった餅が冷めると粘りが増して、のどに貼りつきやすくなります。
また、汁気で滑って飲み込みのタイミングがずれやすいこともあり、実はお餅の中でも難易度の高い食べ方です。
さらに、咀嚼力や唾液量の低下、認知症による判断力の低下などもリスク要因です。
**加えて、**中には「噛むのが面倒」と感じて丸のみしてしまう方もいます。
これが窒息事故につながりやすい理由です。

夏は「そうめん」でもむせやすい人が増える季節です。
つるっと食べやすい反面、意外なリスクがあることを知っておきましょう。
▶ 関連記事:夏に多い“むせ”の原因とは?高齢者とそうめんの意外なリスク
安全に食べるための工夫と代用アイデア
安全に食べるための基本ポイント
- 代用食品を選ぶ:やわらか餅、白玉風、介護用ソフト餅など。
- 食形態を工夫する:お雑煮よりも、焼き海苔を巻いた焼き餅のほうがコントロールしやすい。
ただし、海苔も貼りつきやすいので、小さく切る・よく噛む・飲み込みを確認することが大切です。 - 食前に“口の準備運動”をする:あいうえお体操や唇・舌を動かす運動で飲み込みやすく。
普段からお話し好きな方は、口まわりの筋肉がよく動いていて、むせにくい印象があります。
いきなり走るとケガをするのと同じで、食事も“準備運動”が大切です。
むせを減らすためのトレーニング法はこちらでも紹介しています。
▶ 【2025年版】現役STが教える!自宅でできる誤嚥性肺炎予防トレーニング
高齢者でも安心して食べられる【やわらかお餅・3選】
「お餅をやめる」ではなく「選び変える」。
見た目はお餅そのまま、でも舌や歯ぐきでつぶせる柔らかさの代用食品なら、安心して季節の味を楽しめます。
以下は在宅でも扱いやすく、人気のある3商品です。
アサヒグループ食品「スプーンで食べるおもち」
加熱いらずで手軽。スプーンで食べられるやわらかおもちです。
そふまる「ソフトもち(白)」
歯ぐきでつぶせるやわらかさ。焼いても煮ても形がくずれにくいタイプ。
キッセイ薬品「やわらか福もち(紅白)」
行事食にもぴったり。紅白で見た目も華やかなやわらかおもちです。
もし餅が喉に詰まったら?家庭でできる応急対応
万が一、餅が喉に詰まった場合は背中を強く叩かないでください。
逆流して気道をふさぐ危険があります。
まずは咳が出るか確認し、意識がある場合は咳を促すのが第一。
呼吸ができない・声が出ない場合は、すぐに119へ連絡し、可能であれば**ハイムリック法(腹部突き上げ法)**を試みます。
現場でも一瞬の判断が命を左右します。慌てずに“呼吸の有無を確認”することが第一です。
詳しい手順や図解は、以下の公式サイトで確認できます。
まとめ
お餅は危険だからやめるものではありません。
工夫すれば、安全に楽しむことができます。
食べる楽しみをあきらめないために、
代用食品の活用、食べ方・切り方の見直し、そして食前の準備運動や家族の見守り。
STとして、**「食べる楽しみを守ること」**をこれからも大切にしたいと思います。
むせの原因や見分け方については、こちらの記事も参考にどうぞ。
▶【保存版】高齢者がむせる原因は?よくある理由と誤嚥を防ぐやさしい対策まとめ


