はじめに
「退院のときに、とろみをつけるように指導されたのに…」
家に帰ると、親はなかなか続けてくれない。
安全のためだとわかっていても、面倒だったり味が気に入らなかったりして、ついそのまま飲んでしまうことがあります。
私もデイサービスで働く中で、施設ではきちんととろみをつけて飲める方でも、家ではやめてしまう様子を何度も目にしてきました。
「うちの親だけかな…?」と思うかもしれませんが、こうした悩みは珍しいことではありません。
今回は、なぜ高齢者がとろみを続けられないのか、そしてどう工夫すれば家庭でも続けやすくなるのかを、現場での体験を交えながらご紹介します。
なぜ「とろみ」が続かないのか?よくある理由
1. とろみの量や濃度がわかりにくい
スプーン一杯なのか、スティック1本なのか…とろみ剤の適量は「飲み物の量」「メーカーごとの違い」で変わります。
特にスティックタイプは「全部入れると濃すぎる」という声も多く、結局うまく使えないまま放置されることもあります。
実際、デイサービスで「薄めにすると飲みやすいのに、家では濃すぎるのが嫌」と言ってやめてしまう方もいました。このように量や濃度のわかりにくさは、続けられない大きな原因です。
2. 手間や面倒で続かない
独居や高齢夫婦だけの世帯では、食事の準備だけでも大変です。
そこに「とろみを毎回つける」手間が加わると負担に感じやすく、結果的に続かなくなることがあります。
「忙しいときはついそのまま飲んでしまう」という方も多く、家族が少しでもサポートすることが大切です。

続けやすくするための「とろみ」の工夫4選
1. 少量から始める
濃すぎると飲みにくくなるため、まずは薄めで試し、徐々に濃度を調整します。
ただし、勝手に量を減らすと誤嚥の可能性があるため、退院時の指導を守りつつ、本人の飲みやすさを観察して少しずつ調整することが大切です。
2. 飲み物の種類で工夫する
お茶のとろみは苦手でも、乳性の飲み物(ミルクやヨーグルト飲料)は比較的飲みやすいことがあります。冷たいお茶の“ぬるっと感”より、やわらかく感じられるのかもしれません。
濃度が高すぎると飲みにくく残留しやすいので、量や濃度は慎重に調整してください。
3. 飲み物ごとに専用カップを決める
お茶、コーヒー、汁物など、飲み物の種類によって適切なとろみの濃さは微妙に違います。
専用カップを決めておくと、毎回同じ分量を作りやすく、味や濃さのムラも減らせます。
4. 季節や温度で工夫する
夏は冷たい飲み物が多く、とろみが固まりやすいことがあります。人肌程度に温めると、飲みやすさが格段に上がります。
冬は逆に温めすぎると風味が変わることもあるので、少しずつ調整すると良いでしょう。

とろみの種類で工夫する
とろみ剤にもいくつかの種類があり、メーカーごとに特徴が少しずつ異なります。
たとえば「溶けやすさ」「とろみの安定性」「味や色への影響」など、実際に使ってみると違いが分かることもあります。
ご家庭で続けやすいものを見つけることが大切です。
種類・タイプ | 特徴 | 注意点 |
---|---|---|
粉末タイプ | 最も一般的。水やお茶に混ぜやすい。量の調整がしやすい。 | 溶け残りがダマになることがある。よくかき混ぜる必要がある。 |
液体タイプ | 混ざりやすく、ダマになりにくい。外出時にも便利。 | 粉末よりコストが高め。使用量が分かりにくい場合がある。 |
とろみ付き飲料 | すでに飲みやすい状態に加工されている。すぐに使える。 | 種類が限られる。価格が高く、継続にはコストがかかる。 |
とろみをやめてしまうとどうなる?
とろみをやめると、以下のようなリスクが高まります。
- 飲み込みが間に合わず、むせが増える
- 知らないうちに少しずつ気管に入る「不顕性誤嚥」が起きる
- 結果的に誤嚥性肺炎につながる危険
とろみは「命を守るための小さな工夫」でもあります。

まとめ
高齢の親に「とろみ」を勧めても続かないのは、怠けているからではなく、量がわからない・面倒・味が嫌だといった理由が大半です。
大切なのは「どうすれば続けられるか」を一緒に考えること。
とろみは単なる介護の工夫ではなく、誤嚥や肺炎から親を守る命の工夫でもあります。
まずは少しずつ、家庭でできる小さな工夫から始めてみてください。
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参考文献
- 厚生労働省:誤嚥性肺炎に関する情報(https://www.mhlw.go.jp/)
- 日本摂食嚥下リハビリテーション学会「とろみ調整食品の使用指針」
- 介護食品協議会:とろみ調整食品の基礎知識