はじめに
「暑くなってから、むせることが増えた…」
高齢の家族と食事をしていて、こんなふうに感じたことはありませんか?
・冷たいお茶でむせた
・食事中に何度も「ゴホッ」と咳き込む
・そうめんを食べたあと、声がガラガラに
夏は高齢者にとって、「むせやすい季節」。とくにそうめんのような水分が多い食事での相談が増える傾向があります。
この記事では、高齢者が夏にむせやすい理由と、そうめんの意外なリスク、そして家庭でできる予防法を言語聴覚士(ST)の視点でわかりやすく解説します。

夏に「むせ」が増える3つの理由
① 水分の多い食べものが増える
夏場は冷たくてのどごしの良いものを食べる機会が増えます。
水分が多すぎる食事は、 飲み込みのタイミングがずれやすいという特徴があります。
とろみのない液体や、さらっとしたそうめんのつゆなどは、飲み込みの準備が整う前にのどへ流れ込み、「むせ」やすくなります【1】。
② 暑さによる注意力の低下
高齢者は暑さによって体力や集中力が低下しやすく、食事中の姿勢や咀嚼(そしゃく)に対する意識もぼんやりしがちです。
暑さで食欲が落ちていると、よく噛まずに早く食べようとしてしまい、結果としてむせることもあります【2】。
③ 食事環境の変化や姿勢の崩れ
暑さを避けるために扇風機の前で食事をしたり、冷房で体が冷えすぎてしまうと、姿勢が崩れたり、筋肉の動きが低下することがあります。
食事中の姿勢や環境が整っていないと、飲み込みにも悪影響を与えやすくなります【3】。

実は要注意!“そうめん”が誤嚥リスクになりやすい3つの理由
そうめんは食べやすく見えて、実は**「むせ」や「誤嚥(ごえん)」のリスクが高い食材**のひとつです【4】。
理由は以下の3つ。
・のど越しが良すぎて咀嚼が不十分になりやすい
・麺が口の中に残りやすく、咳き込みの原因になる
・つゆの中に入れて一気にすすりがち
とくに高齢者は飲み込む力や感覚が低下しているため、本人も気づかないうちに誤嚥しているケースもあります。

むせを防ぐ!そうめんを安全に食べる5つの工夫
① 食事前にしっかり水分補給をする
夏場は脱水気味になっていることが多く、口の中やのどが乾燥して飲み込みづらくなっていることも。食前に一口水分を取ってから食事に入りましょう。
また水分補給は「少量ずつ・回数多め」がポイントです【5】。
②正しい姿勢で食べる
背筋を伸ばして、足裏を床にしっかりつけ、あごを軽く引く姿勢が理想です。
③麺を短く切る
一口の量を減らすと、のどの負担が軽くなり、飲み込みやすくなります。
④とろみをつける
そうめんは、麺とつゆを一緒に飲み込む必要があるため、高齢者にとってはむせやすくなります。
つゆに軽くとろみをつけると、飲み込みのタイミングが合いやすくなります【6】
➄温かめで提供する
冷えすぎると感覚が鈍るため、常温〜ぬるめがおすすめです。

放置は危険!今すぐ確認したい5つのサイン
「ちょっとむせただけ」と思っていても、以下のようなサインがある場合は早めに相談を。
1.飲み物でむせることがある
2.食後に声がガラガラする
3.食後に痰がからんだり咳が出る
4.食後や翌日に熱が出やすい
5.体重が減ってきた
気になる場合は、かかりつけ医や**言語聴覚士(ST)**への相談を検討しましょう。

まとめ
高齢者にとって、夏は「むせやすい季節」です。
つるっとしたそうめんは、思わぬ誤嚥リスクになることも。
「食べやすいから大丈夫」と思わず、家庭でのひと工夫で安心できる食事をめざしましょう。
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引用文献
- 塩田清二. 嚥下障害とそのリハビリテーション. 医学書院, 2015.
- 厚生労働省「高齢者の熱中症予防について」https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000640477.pdf
- 山田実ら. 高齢者における食事姿勢と嚥下機能の関係. 理学療法学, 2009.
- 服部万里子. 誤嚥と食事形態の関連性について. 食品衛生学雑誌, 2013.
- 日本摂食嚥下リハビリテーション学会. 嚥下障害Q&A. https://www.jsdr.or.jp/
- 日本摂食嚥下リハビリテーション学会. とろみ剤の使用と注意点